そらはいつでもそこにあるのに。(中編) | こんなんでいいのぉっ!?

そらはいつでもそこにあるのに。(中編)

朝日は目に沁みる。
目の色素が若干人より薄い私は尚更だ。

相変わらず薄着で、布団で少し寝転んだ後、
私は書きかけの遺書たちに想いを込めていく。

こんな時、今まで自分がどんなに色々な人にお世話になったか、
そしてたくさん迷惑をかけ、
場合によっては人の気持ちを傷つけてきたかを実感する。

今まで自分の人生に、書いている1人1人がどう関わってきたか。
思い返しながら書いていたら、意外と時間がかかってしまった。


タバコの煙が、差し込む光に当たって、
ゆらゆらと漂っている。

それをぼーっと眺めながら思い出すのだ。




そんな作業をしていると、メールが来た。


彼女からだった。



冷たくなった手で、携帯を開く。
午前の日の光は、画面を暗く感じさせる。

意外と冷静に、読むことが出来た。




こんな立場のこんな私を、

彼女は心配してくれた。

小さな嘘を含めたそのメールは、

私の心に暖かく刺さった。



今となっては、どんな複雑な気持ちでそんな風に送ってくれたのかはわからない。
そしてその時の私もおかしかったので、
彼女にお礼と、『今お電話大丈夫ですか?』と送ったのだ。

『はい、いいですよ』ときた返事に対し、
私はすぐに電話をかけた。


受け答えた声は、女の私から聞いても、
とても可愛らしい声だった。
媚びるような甘ったるさではなく、
例えるならお姉さんのような、暖かい声だった。


軽く自己紹介をして、謝罪した。

このように不躾に連絡を取ったこと、
立場をわきまえず、お願いをしたこと。
彼と。。。こじれてしまったこと。

あまり詳しく書きたくないので大体だけれど、
話が進むうちに、何でこうなってしまったとか、
お互いどんな風に知り合ったとか、今はどんな状況だとか、
はたまた彼のいいところ、悪いところを、
彼女目線(付き合っている者同士という意味)で話したりもした。


1つ1つの話を『うん。。。うん。。。』と優しく聞いてくれた。

何時間話したか覚えていないが、
ずっと付き合ってくれた。

色々な話をした。
そして私を気にかけてくれて、
そのたびに謝ったりもした。

時間がたつにつれ、本当かどうかわからないけど、
お互い笑って話せたりもした。

どうやって切ったかもよく覚えていない。
ただ社交辞令として、また話しましょうみたいな、
永遠に無いであろう約束をしたりした。
そして、私が連絡したことは彼に黙っていて欲しいとお願いした。



思い直そうという気持ちを私にくれたのは、
紛れもない彼女のおかげだ。

もしここで話すことが無ければ、私は多分色々あきらめていたと思うし、
命の恩人と言っても過言ではない。






気付くと、昼もとっくに過ぎた時間だった。

彼女から、気分転換に散歩に出たら?と言われたのだが、
体が重くて動けなかった。


しばらく休んでいると、彼女からメールが来た。
彼から電話とメールがあったという報告だった。

電話には出れなかったが、
メールには彼から謝罪の言葉があったという。

2人で話あって下さいと返しました。と。


怖くなった。
彼がこのことを知ったらどう思うかなんて、
私の狂った頭では考えずに行動してしまったから。

まだこの時の私も判断が鈍っていたようで。
彼女からこのように連絡が来たからには、
今夜は仕事を終え、帰ってくるのではないかと思ったから。

それを希望と受け取ったのだ。



どんな風に出迎えよう。
とりあえず、彼が知ってしまった今、
私は謝ることから始めなければ。

話し合いはきっと長くなる。
お腹も空いているだろうから、ハンバーグでも作ろう。

そして私は買い物へ行き、支度を始めた。

彼が帰ってくるまでに、作らなきゃ。


怖い気持ちでいっぱいになりながら。
明日のことなど考えられずに。

勝手に思い出を貪る頭を落ち着かせながら、
精一杯の想いを込めて、私は料理していた。




何の連絡も無く、家の冷たい扉が開いた。

その時私は、初めて見る彼の表情に出会ったんだ。






つづく。